AIで楽曲を楽器やボーカルに分離する
そいつは何をするでもなく、ただ野球を見ていた。
きゃーきゃーと騒ぐ女子達から少しの距離を置いて、何をするでもなく。
じりじりと照りつける夏の日に、みんみんと鳴くセミの大合唱、生徒達の掛け声。
そんな中で、何故かそこだけは静かだった。
その、生徒の周りだけは。
■ Keepsake ■
「よぉ。お前、いっつもそんなとこで見てて暑くないか?」
「…」
フェンスの外から野球部を見ていた生徒に声をかける。
羊谷の笑顔とは対象に、相手の顔は至極迷惑気。
しかもその迷惑そうな表情のままふいっと向こうを向いてしまった。
…このガキっ…
羊谷の額にピキッと青筋が浮かぶ。
「返事くらいしたらどうだ。2−Hの?」
「!?」
名前を呼んだ途端に生徒…が驚いた顔で羊谷の方を向いた。
してやったり。
勝ち誇ったようにニヤリと笑うのを見て、が眉根を寄せる。
「…何で、名前知ってるんだ?」
「知ってちゃ悪いか?俺も一応先生なんだけどな」
わざととぼけてそう言うと、がさらに不振そうな顔をして、
「教師でも生徒全部の名前知ってるわけじゃないだろ。知ってる教師もいるかも知れないけど…
あんたは到底そんなタイプには見えない」
「あっはっは!よ〜くしってるなー…………って何さらりと失礼なこと言ってんだお前は!!」
「本当のことだろう」
またもさらりと言われたセリフに、ムキー!とどこかの耳をもぎ取られたピンク色のウサギのように怒る羊谷。
「っかー!可愛くねぇ!!」
「あんたに可愛がられたくない」
「…」
言いやがったなこのやろう…
羊谷は額に青筋を浮かべたままスッ、とポケットからメモ帳を取り出し、
「。今年親の都合か何かで十二支に編入。父親はおらず、母親が女手一つで育ててきた…か、なるほどな。
それから成績は中の中でごくごく普通。素行についても、前の学校から引き続き特に問題なし」
「お、おい…」
「ちなみに身長が168cmで体重が57kg。あとそれから…」
「ちょっ…ちょっと待てちょっと!!」
「んー?どうかしたか、君?」
慌てたように制するにニヤニヤしながら羊谷が言う。
は少し警戒した様子で、
「そんなもん、どうやって調べたんだよ。あんた俺の担任じゃないだろ?」
「…それはなぁ…」
羊谷の顔に殊更悪そうな笑みが浮かぶ。
そしてグイッとフェンス越しに相手の襟を掴んで引き寄せると、あっけにとられているの耳元にぼそり、と、
「職・権・乱・用v」
わざと可愛らしく言ってやった。
「…っ!?」
途端に勢いよく離れて耳を押さえる。
心なしか鳥肌が立っているようにも見える。
逃がさないようにの腕をがっちりと捕まえたまま、
「おーおー、反応がいいねぇ君」
「おまっ…おまえ…っ!」
何か言おうとしてパクパクと口を動かしているが、よほど動揺しているのかちゃんとした言葉になっていない。
ほほぅ…耳が弱点か…
そう思いつくや否や、ニヤニヤした笑みを浮かべたままふぅー…と反対側の耳に息を吹きかけた。
「……!?!?」
が声にならない声を発する。
それを見てさらにニヤニヤする羊谷。
完全に嫌がらせである。
「……………なに、生徒いじめてんすか、監督」
「ぅおっ!?」
突然背後からかけられた声にビクッとする。
後ろを振り返ると呆れたような顔をした犬飼と辰羅川がいた。
羊谷はふぅー、と安堵の息をついて、
「何だ、お前らか…」
「何だ、ではありませんよ監督。教師たるものが部をほったらかしにして生徒をいじめているというのは
あまり感心の出来ることでは…」
辰羅川の長〜い小言が始まりそうな雰囲気に、羊谷が慌てて
「いや、こいつからかうと面白いからついな、つい」
「面白いってゆーな!」
半分泣きそうな顔をしてが反論する。
それを見ていた犬飼は、おもむろにフェンスの向こう側に行くと、
ベリッ
羊谷からを離した。
驚いたような顔で自分を見つめるからふいっと顔をそらし、
「とりあえず…この監督には近づくな。危ないから」
「ぅおい!そりゃぁどーいう意味だ犬飼!!」
ズビシッと羊谷からツッコミが入るが、犬飼はそれを無視する。
何だか後が怖いような気もするが、今相手するのも疲れる…そんな顔で。
が照れのためか、少し視線を泳がせながら、
「あー…あり、がとう」
「…」
犬飼は返事をする代わりにポンッ、と相手の頭に手をのせた。
「…和んでるな…」
「和んでますねぇ…」
そんなやり取りを見てボソッと呟いた羊谷と、のほほんと笑って頷く辰羅川。
羊谷は面白くなさそうにフンッ、と鼻を鳴らして、
「おい、犬飼。そいつこっちに連れて来い」
「……」
また何かする気か、という目で自分を見る犬飼に「違う違う」と手を振って、
「そいつこの炎天下の中、ずーっと野球部見てたからな。ベンチに連れて来い。…日射病になる」
「べっ別に野球部見てたわけじゃ…」
「毎日毎日最後まで練習見てたくせに何言ってんだ」
「!?」
その言葉にがぐっと詰まる。
「…見てた、のか」
「まぁな。あれだけ熱心に見てりゃ誰だって気づくさ」
「…」
ま、本当はそれだけじゃないんだが…
心の中だけでそう呟く。
黙り込んだとその横にいる犬飼にニッと笑いかけ、
「ほれ、早くこっちつれて来い」
何の邪気も感じさせない口調でそう言った。
「ったく、見てるんなら見てるんで、ちゃんと帽子か何か被って来いよ」
見てるこっちが心配するだろうが。
ベンチにて。
パタパタとうちわを扇ぎながらそう言う。
練習風景を眺めていたは羊谷をちらりと見てまた視線を戻し、
「…別に、ずっと見てるつもりじゃなかった」
言いにくそうにそう言ったにパタ…とうちわを扇ぐ手を止めた。
が、すぐにまたパタパタと扇ぎだし、
「気がついたら最後まで見てた…ってか?」
その言葉に素直に頷くを見て、羊谷が笑う。
「そんなに野球好きなら入っちまえよ、野球部」
「いや、野球したことないし…」
「かまやしねぇよ。俺がびしばし鍛えて…」
「それは遠慮する」
即答かよ。
あまりの返事の早さに羊谷がチッと舌打ちをする。
どうやら鍛える気満々だったようだ。
「それに…」
ぽつり、と呟かれた言葉に、無言でそちらを向く。
「それに、野球が好きなのかどうかも、よく分からないから…」
消え入りそうにい小さな声。
タバコを一本取り出しながら、をじっと見る。
「じゃあ、何で野球見てたんだ?」
「……」
考えをめぐらすように少し目を泳がしたあと、なおも考えているような口調で、
「何で、だろう…。俺にもよく分からない。…けど…」
「けど?」
ふと、また考えるようにが目を伏せた。
蝉の声も部員達の声も遠のいて、しばらくの静寂が辺りを包む。
「…父さんが昔、野球やってたって聞いたから、かもしれない」
「……そうか」
確かこいつの父親は、物心ついた時にはもういなかったんだったな。
『』
この名前を持つ人間を俺は知っている。
こいつと、よく似た顔立ちの…
羊谷はふっと笑うと、タバコに火をつけた。
そう、あいつも野球部員だった。
俺と同期、同じポジションを争ったこともある。
多分、こいつは、奴の…
そこまで思い巡らせてからふー、と煙を吐き出す。
吐かれた煙は空中に霧散した。
そして少しの間そのままじっと考える様な仕草をしていたかと思うと、おもむろに、
「お前やっぱ野球部はいれ」
「…だから、俺は野球したこと無いって…」
「じゃあマネージャーやれ」
「はぁ!?」
ぽんぽんと言い放たれる言葉に、が素っ頓狂な声を上げる。
一体この監督は何を考えているのだろうか。
がいまいちその真意を掴みかねていると、羊谷がタバコを持ったままニヤッと笑い、
「うちのマネージャー男いねぇからな。力仕事できるやつほしいんだわ」
まぁ、お前ひょろっちいからあんまり期待もしてねぇけどな。
「ひょっ…ひょろっちいって言うなー!」
力仕事くらい出来る!
意外と気にしていたのか、がそう食って掛かってくるのを見て、羊谷がプフッと噴き出し、
「さあなーどうだかなー…そういうやつに限ってすぐ倒れるんだよなぁ…」
わざとらしくあさっての方を向きながら言われた言葉に、はフルフルしながら下を向き、
「…やる…」
「んん〜?何か言ったか?」
「やってやるよマネージャー!後でほえ面かくなよヒゲ!!」
ヒゲかよ。
多少気になる部分はあったものの、予想通りの答えを聞いて羊谷がニヤリと笑い、
「よーし決定。お前今日から野球部のマネージャーな」
どこからか入部届けと朱肉を取り出し、の腕を掴むと
ポンッ
届け印の所に(無理やり)拇印を押させた。
「……………………………」
「しっ…しまった――――!!!」
時すでに遅し。
後悔しても後の祭り。
そんな言葉達が頭の中を駆け巡る。
かくして、羊谷の基本的過ぎる罠に少年はまんまと嵌まったのであった…。
そしてそれから数分後。
爽やかな笑みを浮かべた野球部主将とマネージャー達に引きずられていくを満足げに見やりながら、
羊谷はふー、と煙を吐く。
ったく、変に意地っ張りなくせに単純なのは絶対あいつ譲りだな…
そう考えて苦笑する。
と、それまで無風だったグラウンドに突然一陣の風が吹いた。
びゅうびゅうという風の音と砂埃と部員達の怒鳴り声と…
ふと、その中に聞き覚えのある声を聞いた気がして、羊谷は顔を上げる。
見えるのは突風が通り過ぎた後の、土ぼこりの立つグラウンドだけ。
『あいつを頼む』
確かに、そう聞こえた気がした。
今はなき、懐かしいあの声が。
羊谷はフルフルと首を振り、ふっと笑うと、
「分かってるよ、親友…」
呟いて見上げた空は、目が痛くなるような青と白のコントラスト。
柄にも無く感傷的な気分になりかけたのを隠すように、まだ騒いでいる部員達に向かって声を上げた。
「…おらー!いつまでさわいでやがる!さっさと練習にもどれー!」
強い日差し。
そうして親友のいない、何度目かの夏が巡ってくる。
じりじりと照りつける夏の日に
みんみんと鳴くセミの大合唱
生徒達の掛け声
そんな中で、何故かそこだけは静かだった
あいつに目がいったのはそれだけの理由
そう、きっとそれだけの…
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相互記念品♪
『''03.xxx缶詰』の眞田様に捧げましたv
おっ、遅くなりまして申しわけありません!
しかもこのまとまりの無さは!?(汗)
これはもうドリームではなく、ただの羊谷小せ…ごふんげふん!!
い、いえいえそれは言いますまい(目をそらしつつ)
こんなへっぽこへっぽこしたものでよろしければどうぞお納めくださいませvv
相互ありがとうございました〜!
これからも末永くよろしくお願いいたします(笑)
牧羊犬
