AIで楽曲を楽器やボーカルに分離する
Drive Shadow
「うぉ〜い。どこまで行くんだ〜?」
猫について歩くこと10分。
狭い小道をあっちへ行きこっちへ行き、ともうかなり帰り道が心もとない。
…このままだと俺家にすら帰れないかも…
内心不安でしょうがない俺とは打って変わって前を歩く黒猫君は威風堂々。
足取りもしっかりと進んでいく。
時々俺がついてきているか確認するように後ろをふり向くのがちょっとおかしいけど。
この猫君は実は『バロン』の猫……だったらいいなぁ。
半ば諦めてふっ、と器用に影をしょいながら遠い目をする。
この道はどう考えても『バロン』には続いていないだろう。
それが分かっているのに、どうして俺は黒猫君の後をついていっているのか。
…なんでだろうな。
着いてかなくちゃいけないような気がするというか、
猫君の妙な気迫に押されたというか…
…………。
猫に気迫で負けてどうするよ俺。
思わず心の中でびしっとツッコミを入れていると、タムッという小さな音が聞こえた。
何だ?と前を見ると……さっきまでいた猫君がいない…
「…もしかして俺捨てられた!?」
と、何も知らない誰かが聞いたらかなり誤解を招きそうなことを叫んだ途端、今度はずるっと
すべるような音が上から。
びっくりして音のしたほうを見ると、…猫君が塀の上から滑り落ちそうになっていた。
猫君は慌てて体勢を立て直し、何故か俺のほうを呆れたような目で見る。
?と思っていると猫君は気を取り直したように歩き出した。
何だかため息が聞こえたような気がしたのは…気のせいだろう(マインドコントロール)
「おぉ…」
目の前の光景に俺は思わず感嘆の声を出す。
目に映るのは広い一本の通り…だけど、それはコンクリートで舗装された見慣れた道じゃなくて、
昔によく見られたような土の道だった。
夕暮れの光に照らされた、古い町並み。
軒並ぶ木造の家々に、今ではあまり見られなくなったであろう駄菓子屋。
老舗らしい構えの豆腐屋。
その傍には打ち水用だろうか、木の桶とひしゃくがそっと置かれていた。
まるで一昔前に戻ったような錯覚さえ覚える。
昔、祖父が話してくれたような、昔の風景。
『逢魔が時にそこに迷い込んではいけないよ』
ふっ、と急にその言葉を思い出した。
目に浮かんだのは、今と同じような夕暮れの光の中、縁側で静かに話す祖父の姿。
「龍。逢魔が時にそこに迷い込んではいけないよ。でないと、取り込まれてしまうからね。
……―――に」
…あれ?
何に取り込まれるって言ってたんだっけ。
そもそも「そこ」ってどこだ?
もうかなり前の記憶なので、あまりはっきりとは覚えていない。
ただ覚えているのは、祖父がやけに真剣だったこと。
何度も繰り返し俺に聞かせてくれていたような気がする。
……それなのになんで忘れるかな…
ちょっと自分の記憶力のなさにへこんでいると、足に何かが当たる感触が。
ぎょっとして下を見ると、黒猫君がにゃ〜ん、と鳴きながら俺の足にすり寄ってきていた。
俺は思わず笑って、横にしゃがむとなでなでと黒猫君の背中をなでた。
大人しくなでられてくれているのに調子に乗って喉やら尻尾の付け根やらをなでまくる。
あぁ〜ふわふわ〜〜vv
黒猫君はしばらくごろごろと喉を鳴らして気持ちよさそうに目を細めていたが、
「…結局、お前は俺をどこに案内したかったんだろうなぁ」
俺が小さくそう呟くと黒猫君はふ、と目を開けてこっちをじっと見つめてきた。
と、おもむろにすり、と俺の手にすりよると
「な〜ん」
そのまま軽やかな足取りで通りの向こう側にかけていく。
「え、ちょっと…」
お前がいないと俺家に帰れないよ(涙)
慌てて立ち上がった俺の目に、何かに反射したような強い光が飛び込んできた。
何だ?
目の前に手をかざして目を細める。
通りの向かい、黒猫君の走っていった方に、ひときわ古い家があった。
看板に夕日が反射してちかちかと光る。
「…森上、時計店…?」
時計屋さんか…それにしても、古い家…。
そう思いながら時計屋に近づいていく。
「確か、この家に入っていったと思うんだけど…」
すみませーん、と小声でいいながらひょこっと店の中をのぞいてみるが、さっきの黒猫君も
店の主人らしき人もいない。
代わりに無数の時計がカチ、コチ、と規則正しいリズムを刻んでいた。
「うわー…当たり前だけど時計ばっかり…」
しかも普通の時計じゃなくて、振り子のついた古そうな掛け時計ばっかり。
なるほど、この店古そうだもんな…年代ものの時計の一つや二つあって当然か…?
いや、でもこの数はすごすぎるだろう、さすがに。
壊れたらどうするんだろう…とぼんやり考えていると、
「おや、いらっしゃい」
「!!??」
ビックゥ!!
突然背後からかけられた声に文字通り飛び上がる。
ズザッと振り向きつつあとずさった拍子に、ぶつかったガラス戸がガシャン!となった。
俺を驚かせた張本人らしい人はやけににこにこした顔で、
「あ、すみません。驚かせちゃいましたか?」
「い、いえ…」
び、びびびびびびびびびびびびっくりした!!びっくりしたぁ!!!
まだばっくんばっくんいっている胸に手を当てて、何とかそれだけ答える。
気配なかったよこの人…
と、にこにこ顔の人の後ろからにゃ――〜ん、という声が聞こえた。
「?……あ!?さっきの黒猫君!!」
俺の声によっ、と挨拶をするように尻尾を一振りする。
にこにこ兄ちゃんがやっぱりにこにこしたまま(地顔なのか…?) ああ、と頷いて黒猫君を
抱き上げ、
「タマのお友達でしたか」
タマ。
………黒いのに…?
ち、違う!
今の問題はそこじゃない!!
「いや、お友達というか何というか…道に迷ってた時にこの猫君が案内してくれて…」
目的地とは違うとこだったけど。
こしょこしょと喉をなでるとタマは気持ちよさそうに目を閉じた。
兄ちゃんはくすくす笑いながら、
「あなたもタマに連れてこられたんですね」
「『あなたも』…って、こういうことよくあるんですか?」
「…………………」
…。
……。
………。
たっ、頼むから無言でにこにこしないで下さい…
だめだ!
沈黙に耐えられん…!!
「あ、あの!」
「はい?」
ああ呼びかけたは良いがこの先を考えてなかった!
「あ、あの…その…」
「?」
「そっ……そのにこにこしてるのは地顔ですか?!」
「…。」
一瞬ぴたりと兄ちゃんの笑顔が固まる。
ああぁー!!
何を聞いてるんだ俺は!!
思わず自分の頭を抱えてのぁーー!と心の中で叫んだ。
…叫んだつもりだった。
お、怒った、かな…?
恐る恐る兄ちゃんの方を見ると…兄ちゃんは向こうを向いてフルフル肩を震わせている。
笑いを必死でこらえるように手で口を押さえて。
ハッ!?
もしかしてさっきの叫びが声に出てた…!?
まだあったばかりの人に…!
…は、恥ずかしすぎる…
兄ちゃんはひとしきり笑った後(声は出さなかったが)目じりにたまった涙をぬぐいながら、
「す、すみません。つい…」
いや、面白い方ですねぇ。
「はぁ、どうも…」
そんな、しみじみ言われても…
あぁ、顔が熱い。
「と、ご挨拶が遅れました。私この店の主人をしております森上、と申します」
「あ、どうも。…川本龍一です」
差し出された手を握り返して名前を言うと、兄ちゃん…いや、森上さんはピタ、と止まって、
「川本さん、ですか」
「?え、ええ…」
何だ?
別に変わった苗字じゃないよな?
森上さんはじぃ――――――――――――〜っと穴が開きそうなほど俺の顔を見(目が細いから
あまり分からなかったが)
「もしかしておじい様は喜一さん、とおっしゃるのでは?」
「!?」
確かに俺のじいちゃんは喜一って名前だけど…。
何で知ってるんだこの人。
少々困惑する俺を見て森上さんは一人うんうん、と頷き、
「そうでしたかそうでしたか。どうりでどこかであった気がしたわけですねぇ。やはりよく
似ていらっしゃる…」
俺とじいちゃん似てるのか…って、そうじゃなくて。
「…森上さんは祖父を知っているんですか?」
「はい。…かなり親しくお付き合いを」
相変わらずにこにこしながら…いや、笑顔5割増で森上さんが答える。
『かなり』の部分に含みがあったような気がするのは気のせいだろうか…。
「そ、そうだったんですか…」
じいちゃんと親しかった人は皆知ってると思ってたから、ちょっと驚いた。
…ん?
待てよ、じいちゃん確か前に一回「友達連中は年寄りばっかりで華がない」とか何とかぶつぶつ
言ってたような…?
「あの、森上さんはいつ祖父とお知り…」
「あ、そうですそうです。うちでアルバイトの方を募集してるんですが、・・・龍一さんいかが
でしょう?」
さえぎられたことに抗議しようとしていた俺はその言葉にぴたり、と止まる。
「……アルバイト……?」
「はい。どうもうちには人が来なくて…時給も中々ですし、結構いいと思うんですけ…」
ガシッ!!
「…俺、やります!!」
先ほどの質問はどこへやら。
俺は森上さんの手を掴みつつとても爽やかな笑顔で即答した。
「……………って、何か上手くはぐらかされたような気が…」
時計屋からの帰り道。(帰りの道案内もタマくん♂)
もうすっかり上機嫌で自転車をこいでいた俺は、いまさらながら気がついた。
願ってもない話が降って沸いてきたもんだからつい忘れてたよ…
「…いいか。帰ってから父さんにでも聞いてみよう」
まあ、知らない可能性のほうが高いけどな…
思い出すのはあの人のよさそうなにこにこ顔とやたら毛並みのいい黒猫くん。
どうもあの人たちを前にすると調子が狂う。
やけににこにこした顔が、じいちゃんの話が出てからさらににこにこしてたし…
アルバイトの契約を済ませてからはまたさらににこにこしてたし…
……
つうっと嫌な汗がつたう。
「…もしかして、俺、選択間違えた…?」
その呟きを聞いていたのは、ただ明るく道を照らす満月だけ
