AIで楽曲を楽器やボーカルに分離する
― 19世紀、ロンドン郊外 ―
「うーん…いい天気だー」
僕はくあ〜、とあくびをしながらぐぅっとのびをした。
白い息が吐き出される。
昇ったばかりの朝日が木の葉に反射してきらきらと揺れている。
僕の名前はトーマス・ウィクリフ。
親から受け継いだこの『ウィンザー・ベーカリー』というパン屋を経営している。
まぁ、まだまだ修行中だけど…
今日もいつも通りにパンをこねて焼く。
火加減はこれでよし、と…
じきにふんわりしたパンのいい匂いが漂ってくるだろう。
僕はパンをひとまずそのままにして店の掃除にとりかかった。
父も朝早くからせっせと店を綺麗にしていたものだ。
これが中々頑固な親父で…
どんな時でも愛情を込めてパンを作れ、というのが父の口癖だった。
それを実践…出来ているかどうかはわからないが、僕もこの仕事にそれなりの愛着を持っている。
なんだかんだ言ってもパンを作るのは好きだし、おいしいといって笑ってくれる人たちがいれば、
なおさらだ。
そんな事を考えて何だかしみじみとしていると、
バッターン!
扉が壊れそうなぐらいの大きな音を立てて店に入ってきた男が一人。
こげ茶のコートを着た20代半ばほどの青年だ。
きょろきょろと店の中を見回している。
「あの、どうされました?お店はまだ開店しておりませんが…」
何かお探し物でも?そう言おうとした瞬間、青年は突然銀色の目をくわっと見開き、
こっちに向かってダッシュをかけてきた。
「!!!?」
僕が止める間もなく彼はパンを焼いているオーブンを開けて手を突っ込む。
そしてニヤリ、と笑みを漏らし、ぐいっと天板をひっぱった。
「はーっはっ!ようやく見つけたぞ福の神!!やっぱりここにいたか!!」
高笑いと共にそう言い放つと一斤の山形食パンを二つに裂き始める。
「ああっ!!何するんですかぁ!!」
大事なパンに――――!!!
僕は両手で自分の髪をぐしゃぐしゃした。
っていうかフクノカミって誰だよ!!
青年は僕の言うことをまったく無視してパンの中から何かを引きずり出した。
手の中でなにやら白い物体がうごうごしている。
「……………………………虫……?」
そ、そんな!パンをこねてる時に入っちゃったのか!?
僕がかなりの衝撃を受けていると青年はぱたぱたと手をふって、
「違う。福の神。東洋の福をもたらすとされている神様だ。」
「神様っ!?その全長6pぐらいの小っこいのが!!?」
んなバカな!!
と、急に手の中の小っこいのがバッタバタあばれだした。
「あーぁ。そんな事いうから怒っちゃったじゃないか。」
「え、あ!ご、ごめんなさい。……でも、仮にその…人?が神様だったとして、
何でパンの中にいるんですか。」
その前にあなたは誰なんですか。
聞きたかったけど、とりあえずそれはおいといて。
青年はばたばたしてる小っこいのを両手で押さえつけながらああ、と言い、
「こいつな、何故か高温の密室とパンが大好きでな」
たぶんパンが焼けたところで、そのパン食うつもりだったんだろうさ。
「………一石二鳥ですか…」
何だか力ない笑みが浮かんでくる。
僕は改めて青年お手の中にいる小っこいのを見た。
人のよさそうな顔で、なまずのようなヒゲがちょこん、とついている。
小さな手足で一生懸命ばたばたしていた。
……結構可愛いかもしれない。
そう思ったのが通じたのかどうか、…福の神?はバタバタするのをやめて
じ――――っと僕のほうを見つめてきた。
そしていきなり青年の手を抜け出してぴょーぃ、と僕の頭に飛び乗ってくる。
「わっ!?」
な、何だ何だ!?
青年はあっちゃー、という顔をして、
「お前、そいつに気に入られたみたいだぞ。」
「えぇっ!?」
福の神は僕の手まで下りてきてにこにこしている。
「そいつは気に入ったのがいるとず―――――――っとそいつについてくんだ。
…そいつがこの世を去るまでな。」
何ぃ!!?
「あ、でも福の神なわけだし…」
汗をだらだら流しながら青年の方を見ると、彼はふ、と笑い、
「ところが、だ。こいつはまだ神様としては半人前でなぁ。失敗ばっかりやらかして
被害が拡大する一方なんで俺が保護しに来たんだ。それが………まったく。」
そう言ってふー、と息を吐く。
僕はちょっといやーな予感がして青年に聞いてみる。
「えーと……ちなみに、失敗って……どんな?」
「あー、そうだな…例えば石を金に変えようとして熊に変えちゃったとか、
風邪を治すつもりが、かえって取り返しのつかない重病にしちゃったりとか…」
厄介なのは悪気がまったくなくてやってるってとこだなぁ。
「…………………………」
なんてこった!!
僕ががっくり床に手を着いてうなだれていると青年がぽんっと肩に手をおき、
「まー、心配するな。俺が被害拡大しないようにずっとついといてやるから!」
「ずっと!!?」
えらい爽やかな笑顔ですよお兄さん!?
あぁー!19歳の若さにしてお先真っ暗だ!!
まだ彼女もいないのに―――――!!!
青年はそう、とニッコリしてす、と手を出し、
「俺は世界神保護局の神保護課部長、アーノルド・ターンだ。ま、よろしくな。」
「……………トーマスです、よろしく…」
神保護局って何だよ!と突っ込む気力もなく、力なく握手をする。
ああ、胃に穴が開きそうだ…。
父さん、母さん。そっちに行くのは結構すぐかもしれません…。
